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札幌高等裁判所 昭和50年(行コ)7号 判決 1982年10月27日

控訴人(被告) 美瑛営林署長 外三名

被控訴人(原告) 本多政二 外一三八名

主文

原判決中被控訴人らに関する部分を取消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者が求める裁判

一  控訴人ら

主文と同旨の判決

二  被控訴人ら

「本件控訴はいずれもこれを棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の事実摘示のとおりである(但し、原判決の原告目録記載の原告番号九九番原告鈴木貞夫、同一四〇番原告原田光雄に関する部分を除く。)から、これを引用する。

一  原判決の、1 五頁一五行目の「旭川営林局長」の次に「(昭和五三年七月五日法律第八七号農林省設置法の一部を改正する法律の施行前。昭和五四年一月一日、右の改正法施行後は、旭川営林支局長。)」を、六頁二行目の「旭川営林局」の次に「(前記改正法施行前。昭和五四年一月一日、前記改正法施行後は旭川営林支局。)」を加入し、2 一八頁一一行目の「同四六年三月まで」の次に「に」を加入し、3 一八頁末行の「手当てをし」を「手当を支給することとし」と改め、4 二二頁一四行目の「労働権」を「労働基本権」と改め、5 三四頁四行目の「権利保護から」を削除し、6 三四頁一三行目の「実施される」の次に「ようにできる」を加入し、7 三五頁一〇行目の「などをそのまま」を「一項などを文理どおり」と改め、8 三八頁末行の「3」を「(3)」と改め、9 三九頁三行目の「4」を「(4)」と改め、10 四四頁五行目の「については、それを」を「は、」と改め、11 四五頁六行目及び一一行目の「一七条」の次にそれぞれ「一項」を加入し、12 四七頁四行目及び四八頁七行目の「労働権」をいずれも「労働基本権」と改める。

二  被控訴人ら

1  本件ストライキ及びその後昭和五一年一二月一六日までの間に全林野旭川地本が実施したストライキの回数、規模、参加人員等の概要と右のストライキの指導、参加を理由として戒告以上の懲戒処分を受けた者の人数は、「ストライキ及び被処分者数表」に記載のとおりである。

2  本件ストライキは、昭和四七年以降に実施されたストライキと比較すると、その回数、時間、参加人員等その規模が極く小さく、その目的は賃上げ、処遇改善という純経済的なものであり、かつ本件ストライキが国民生活に及ぼした影響は皆無であるにかかわらず、本件ストライキ参加者は、その全員が戒告以上の懲戒処分を受けたのに対して、昭和四八年二月一〇日以降に実施されたストライキに参加した一般組合員に対しては戒告以上の懲戒処分はなされていないことからすれば、本件ストライキに参加したことを理由として、被控訴人らに対してなされた本件懲戒処分は、懲戒権の裁量の範囲を逸脱し、これを濫用したものというべきであつて、取消されるべきものである。

3  被控訴人らのうち停職処分を受けた者に交付された処分説明書の記載によると、右の被控訴人らの本件ストライキの指導責任のみを処分事由としており、右の被控訴人らの過去の懲戒処分歴は処分事由とされていないのであるから、その懲戒処分歴を考慮してなされた右の被控訴人らに対する本件懲戒処分は違法である。

三  控訴人ら

1  被控訴人らの右二1の主張事実及び同2の主張事実のうち昭和四八年二月一〇日から昭和五一年一二月一六日までの間に実施されたストライキに参加した一般組合員に対しては、戒告以上の懲戒処分がなされなかつたことはいずれも認める。

2  被控訴人らに対する本件各懲戒処分が懲戒権の濫用であるとの点は否認する。

3  公務員に懲戒処分事由に該当する行為があつた場合に、当該公務員に対して実際に懲戒権を発動するかどうか、発動するとした場合にいかなる種類の処分を選択するかは、懲戒権者が当該行為の原因、動機、態様、結果、影響等諸般の事情を総合勘案して、その裁量によつて決定すべきものであるから、同一態様の非違行為であつても、その行われた時期によつて懲戒処分の対象となり、あるいは対象とならないということはあり得るのであり、懲戒処分は、その処分がなされた時点において、社会通念上著しく妥当性を欠くというものでない限り、懲戒権者の裁量権の範囲内のものとして、その正当性が認められるべきものである。全林野旭川地本が昭和四四年一一月一三日から昭和四七年五月二五日までの間に行つた本件ストライキ三回を含む合計一〇回のストライキについては、その参加者の全員を戒告以上の懲戒処分に付したのであるが、その後に行われたストライキについては、昭和四八年四月二七日、同年の春闘の収拾にあたり、政府と春闘共闘委との間に、七項目の合意が行われたこと、同年九月三日、公務員制度審議会から政府に対して答申が行われたこと、同年一一月一六日、ILOの結社の自由委員会が同理事会に対し懲戒処分に関する報告を行つたこと等に基づいて、政府及び組合側双方の間において労使関係正常化について特別の努力が払われていたという事情が考慮されて、単純参加組合員に対する戒告以上の懲戒処分が行われなかつたものである。右のような事情は、本件各懲戒処分当時には存在しなかつたものであるし、懲戒権者としても考慮し得ない事情であつたのであるから、本件各懲戒処分の正当性に何らの影響を及ぼすものではない。

4  本件各懲戒処分のうちでは重い処分である停職処分を受けた被控訴人らは、本件ストライキ当時、全林野旭川地本の役員として、本件ストライキを積極的に企画、指導するとともに、控訴人らの再三に亘る警告等を無視して本件ストライキを実施させたものである。そして、右の被控訴人らは、過去において多くの懲戒処分歴を有しているにもかかわらず重ねて本件の非違行為を行つたもので、この点は、懲戒権者である控訴人が右の被控訴人について懲戒処分を行うについて考慮すべき事情となつたものである。

第三証拠関係<省略>

理由

一  原判決の事実摘示の第二の一被控訴人らの主張の1(被控訴人らの地位)、2(懲戒処分の存在)の各事実のうち、被控訴人目録記載の番号八番、一一ないし一三番、一五ないし二〇番、一〇六番及び一一八番の各被控訴人が全林野の組合員であるとの点を除くその余の事実、同三控訴人らの主張の1(二)本件争議行為、2(被控訴人らに対する処分の理由)の各事実は、いずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、被控訴人目録記載の前示番号の各被控訴人が全林野の組合員であることが認められる。

二  公労法一七条一項が、その文理どおり一率全面的に争議行為を禁止するものとして、憲法二八条に違反するものでないことは、現在においては最高裁判所の確立された判例(昭和四四年(あ)第二五七一号、同五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁、昭和五一年(行ツ)第七号、同五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁、昭和五三年(オ)第八二八号、同五六年四月九日第一小法廷判決・民集三五巻三号四七七頁)であるから、当裁判所は、右判例に従うのが相当であると考える。

三  してみると、本件ストライキは、いずれも公労法一七条一項に違反する違法なものであり、原判決添付の処分等一覧表の処分の事由、職場集会実施場所、職場集会および職場に復帰するまでの職務放き時間の各欄に記載の各被控訴人の行為は、それぞれ同表の違反事項欄記載の法条に違反し、適用条項欄記載の法条に該当するということができる。

四  1 全林野旭川地本が実施した本件ストライキ以降昭和五一年一二月一六日までのストライキの時期、回数、規模、参加分会数、参加人員の概要及び右ストライキの指導、参加を理由として、戒告以上の懲戒処分を受けた者の人数が別紙「ストライキ及び被処分者数表」に記載のとおりであること、右のストライキのうち昭和四八年二月一〇日から昭和五一年一二月一六日までの間に実施されたストライキに参加した一般組合員に対しては、戒告以上の懲戒処分がなされなかつたことは、当事者間に争いがない。

2 成立に争いのない乙第七五ないし第八一号証及び弁論の全趣旨によると、全林野が実施した昭和四四年一一月一三日から昭和四七年五月二五日までの間のストライキに参加した者は、本件ストライキの参加者を含め、その全員が戒告以上の懲戒処分に付されたが、その後昭和五一年一二月一六日までの間に実施したストライキに参加した一般組合員(単純参加者)は、戒告以上の懲戒処分には付されず、訓告、厳重注意等の処分を受けたに過ぎないこと、右のストライキの単純参加者に対する処分の程度の変化は、昭年四八年四月二七日、同年の春闘の収拾にあたり、政府と春闘共闘委員会との間に、労働基本権問題については、第三次公務員制度審議会の答申が出された場合は、これを尊重する、政府は労使関係の正常化に努力する等の趣旨の項目を含む七項目の合意がなされたこと、同年九月三日、公務員制度審議会が政府に対して答申を行つたこと、同年一一月一六日、ILOの結社の自由委員会が、全逓等の官公労組、総評が出していた提訴について、同理事会に対し、スト参加者に報酬上の恒久的不利益や経歴にまで差別のつく制裁は避けるべきである、ストの起るたびに処分すべきであるとは考えない等の趣旨を含む報告を行つたこと等に基づいて政府、組合側双方の間に労使関係正常化について特別の努力が払われていたという事情が考慮されたことに因るものであり、本件懲戒処分が行われた当時には、右のような事情は存しなかつたことが認められる。したがつて、全林野旭川地本が実施した昭和四八年二月一〇日から昭和五一年一二月一六日までの間のストライキの単純参加者が、戒告以上の懲戒処分を受けなかつたということから、本件ストライキの単純参加者である被控訴人らに対し戒告以上の懲戒処分をなしたことが、懲戒権の濫用であるということはできない。そして、他に、被控訴人らに対してなされた本件各懲戒処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に委ねられた裁量権の範囲を超えこれを濫用したものというべき事実を認めるに足りる証拠はない。

五  国家公務員法(以下「国公法」という。)八二条によつて職員に対し懲戒処分をする場合に、当該職員の過去の懲戒処分歴は、懲戒処分を具体的に決定するについて斟酌することができる事情に含まれるが、国公法八九条一項によつて説明書に記載すべきものとされている「処分の事由」には当らないと解するのが相当であるから、停職処分を受けた被控訴人らに交付された処分説明書に、右の被控訴人らの過去の懲戒処分歴を考慮した旨の記載がなかつたとしても、そのために右の被控訴人らに対する本件各懲戒処分が違法となることはないというべきである。

六  結論

右のとおりで、各被控訴人に対してなされた本件各懲戒処分には、被控訴人らが主張する違法理由は存しないから、その取消を求める被控訴人らの請求はいずれも理由がないものといわなければならない。

よつて、被控訴人らの請求をいずれも認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法三八六条により原判決中の被控訴人らに関する部分を取消して、被控訴人らの請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について同法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎政男 寺井忠 八田秀夫)

ストライキ及び被処分者数表

処分日

(昭和年月日)

ストライキが行われた時期

回数

ストライキの規模

参加分会、参加延人員

戒告以上の懲戒処分者数

四六・八・七

自四六・四・二三

至四六・五・二〇

半日二回外

九分会、四九〇名

全員

四七・九・二九

自四七・四・八

至四七・五・二五

全一日二回

半日一回外

全局署分会参加二回外、四、五七七名

二、二七二名

四九・一・二六

自四八・二・一〇

至四八・四・二七

半日三回外

全局署分会参加五回、一万九七八八名

三五名

五〇・六・四

自四八・一一・二〇

至五〇・五・一〇

二二

全一日一二回

半日三回外

全局署分会参加五回外、三万〇三五五名

四四名

五一・三・二七

自五〇・一一・二六

至五〇・一二・三

全一日六回外

五、九五九名

九二名

五二・四・一四

自五一・三・一七

至五一・一二・一六

一四

全一日一一回

半日二回外

一万二四九〇名

四一名

原審判決の主文、事実及び理由

主文

一、被告美瑛営林署長が、昭和四六年八月七日付で別紙原告目録(以下目録という。)原告番号一ないし五〇番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄に記載のあるもの)は、いずれも取消す。

二、被告旭川営林局長が、昭和四六年八月七日付で目録原告番号五一ないし六三番、同八三ないし九九番、および同一二九ないし一四一番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄記載のもの)は、いずれも取消す。

三、被告名寄営林署長が、昭和四六年八月七日付で目録原告番号六四ないし八二番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄記載のもの)は、いずれも取消す。

四、被告羽幌営林署長が、昭和四六年八月七日付で目録原告番号一〇〇ないし一二八番記載の原告らに対してなした各懲戒処分(別紙処分等一覧表の処分欄記載のもの)は、いずれも取消す。

五、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

の判決

二、請求の趣旨に対する答弁

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一、原告らの主張

1 (原告らの地位)

目録原告番号一ないし五〇番記載の原告らはその任免権者である被告美瑛営林署長に、目録原告番号五一ないし六三番、同八三ないし九九番、および同一二九ないし一四一番記載の原告らはその任免権者である旭川営林局長に、目録原告番号六四ないし八二番記載の原告らはその任免権者である被告名寄営林署長に目録原告番号一〇〇ないし一二八番記載の原告らはその任免権者である羽幌営林署長によつてそれぞれ任用され、旭川営林局管内において国有林野事業に従事している者で、原告らは、いずれも全林野労働組合(以下、全林野という。)に加入している。

なお、目録原告番号八番、一一ないし一三番、一五ないし二〇番、一〇七番および一一九番の原告らはいずれも定期作業員で一〇七番および一一九番の原告らは昭和四六年一二月二八日に、その余の原告らは同年一一月三〇日に退職し、その後右各原告らはいずれも昭和四七年ないし同四九年については四月採用、一一月退職(但し原告番号一〇七番および一一九番の原告らは一二月二八日退職)、昭和五〇年については四月一日採用(但し原告番号八番は五月八日採用)である。

2 (懲戒処分の存在)

被告らは、いずれも前記任免権に基づき、昭和四六年八月七日、原告らに対し、別紙処分等一覧表処分欄(以下処分欄という)記載のとおり各懲戒処分をした。

3 (結論)

しかしながら、被告らのなした右各懲戒処分は違法のものであるからその取消を求めて本訴請求に及んだ。

二、原告らの主張に対する被告らの認否

1 原告らの主張1のうち、目録原告番号八番、一一ないし一三番、一五ないし二〇番、一〇七番、一一九番の原告らが全林野組合員であることは不知、その余の事実は認める。

2 原告らの主張2は認める。

3 原告らの主張3は争う。

三、被告らの主張

1 (争議行為)

(一) 本件争議行為に至る経過

被告らの上級官庁である林野庁は、全林野から要求のあつた作業員の雇用安定、処遇改善について、次のとおり制度の許す限りその改善に努力して来た。

(1) 作業員の雇用制度

国有林野事業に従事する職員のうち、作業員というのは、「行政機関の職員の定員に関する法律(以下定員法という。)及びこれに基づいて制定された行政機関定員令」に定められた職員(いわゆる定員内職員)以外の職員(いわゆる定員外職員)を指すが、その作業員は、常勤、非常勤の職員にわかれ、その大多数は非常勤職員である。そして非常勤職員はさらに林野庁と全林野との間に締結された定員外職員の雇用区分、雇用基準、および雇用期間に関する覚え書、国有林野事業作業員就業規則によつて、常用作業員、定期作業員、臨時作業員に区分されている。作業員は本来、事務補助的、または肉体労働的単純労務に従事するのが通例で、定員内職員に課される諸規制の一部(例えば、営利企業への就職、兼務の許可や職務宣誓)は適用されていない。なお、昭和四六年四月現在の常用、定期作業員の数は約三万七〇〇〇名である。

(2) 作業員の処遇

まず、雇用期間については、常用作業員は有期雇用ではあるが必ず更新され、実質的には期間の定めのない雇用として安定した雇用形態となつており、定期作業員も毎年一定期間の雇用ではあるが、全林野との間の優先雇用に関する事案の処理についての確認によつて雇用期間満了により一たん退職した後翌年度も優先的に反覆雇用され、事業実施期間の拡大等により通年雇用の実現、雇用期間の延長等が図られることもあつて安定した地位にある。

次に賃金については、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法(以下給特法という。)の適用を受け、林野庁と全林野との間で締結された国有林野事業に従事する作業員の賃金に関する労働協約その他の協約で定められているのであるが、基本賃金については日給制がとられ(賃金の支払形態は大要定額日給制と出来高給制の二本建てとなつている。)それに諸手当(例えば、扶養、期末、寒冷地、住居、山泊)が支給される。また出張、退職手当についても一般国家公務員と同じ法律の適用を受け、(なお定期作業員のうち退職時に国家公務員等退職手当法による給付金の受給資格をみたしていない者に対しては失業保険法が適用され、失業保険金が支払われる。)さらに、休日などについては、本件争議行為当時で、作業員就業規則、及び昭和四四年四月林野庁と全林野との間に締結した国有林野事業の作業員の週休日、および作業休日に関する覚え書により原則として毎日曜日を週休日としている他毎月二日の作業休日を設け、有給休暇についても、常用作業員には労働基準法に定める日数以上の、定期作業員には同法に規定はないのに一一日の各休暇が与えられ、格付賃金相当額が支給されている。また、作業員に対しては、右の有給休暇の他に、作業員就業規則に基づき各種の特別休暇(同規則二三条)、欠勤の承認(同規則二四条)の制度があり、前者については賃金または休業手当が、後者については事由により休業手当または不就労手当が支給されている。

(3) 雇用安定、処遇改善のための「二確認」について

林野庁と全林野とは、昭和四一年三月、雇用安定に関する問題などについて団体交渉が行われたが同年同月二五日の交渉において全林野が「当局は、国有林の経営に当つて直営直用をいかに拡大するか、雇用安定をどのように考えるか。」と質問したのに対し、林野庁は、「当局の方針を説明すれば本日の国会で農林大臣が『国有林の経営については中央森林審議会の答申もあり目下鋭意検討中であるが、国有林の経営の基本姿勢として直営直用を原則としてこれを積極的に拡大し雇用の安定を図ることを前提として検討して参りたい。なお通年化については努力して参りたい。』と述べた趣旨に沿つて検討を進めていく考えである。」と表明し、その方針について全林野との間で文書をとりかわし(いわゆる三、二五確認といわれるものである。)、また、同年六月三〇日に林野庁は全林野に対し、「雇用の安定については、林業基本法一九条ならびに三月二五日表明した方針の趣旨に基づき、従来の取り扱いを是正して基幹要員の臨時的雇用制度を抜本的に改めるという方向で雇用の安定をはかる考えである。この基本姿勢に立つて、さしあたりの措置としては生産事業の通年化による通年雇用の実現、事業実施期間の拡大あるいは各種事業の組合せによる雇用期間の延長などによつて雇用の安定をはかる考えである。……なお、これらの具体化にあたつては労働組合と十分に協議話し合いを行い意思の疎通をはかりながら円滑に進めていく考えである。」との考え方を示し、全林野との間で文書を取りかわした(いわゆる六、三〇確認といわれるものである。)。そして以上二つの確認が二確認といわれるものである。

もつとも、二確認の実現には定員法に基づく定員の問題を始め、適用になる関係諸法令や閣議決定との調整、あるいは国家公務員制度上の問題点に関する関係省庁との折衝、さらには、国有林野事業の企業的経営のための事業の合理的能率的な運営や、事業の継続性の確保、国有林野を取り巻く対境関係(下請業者や、立木を買つて製材をしている者、農閑期に国有林野事業に就労している農民等との関係をいう。)の調整、および事業の自然的、技術的制約による通年事業の困難さなどあつて、相当な困難のあることを銘記する必要がある。

(4) 二確認の具体化のための労使交渉について

全林野は、昭和四二年一〇月、差別を撤廃し臨時的雇用制度を抜本的に改善すること等を要求して来、林野庁は、同年一一月、抜本的改正については相当の期間を要する旨回答し、雇用制度問題検討会を設置して鋭意検討したうえ、昭和四三年一一月九日、事務段階の素案を全林野に提示してその後の団体交渉などを経、同年一二月二七日には基幹要員の臨時的雇用制度の抜本的改正の方向として、定員内組入れ防止の閣議決定(昭和三六年二月二八日決定など)もあることから常勤職員に準ずる方法で基幹要員の通年雇用、常勤化を図る、処遇内容も常勤にふさわしいものにすることを内容とする基本姿勢を明らかにした。そして、林野庁は、右基本姿勢に立つて昭和四五年実施を図つたが、人事院、行政管理庁など関係省庁と折衝を進めたがその調整ができず、常勤性付与の法制上の措置は林野庁独自の判断では実施できないので、個々の解決し得る問題は別として同年度実施を見送らざるを得なくなり、その旨全林野にも説明した。次いで林野庁は、昭和四六年実施を図るべく関係省庁との調整ができることを前提として、昭和四五年七月には全林野に対し、雇用区分改正案(いわゆる七月提案、以下七月提案という。)として、従来の作業員の雇用区分を改め、基幹作業員、臨時作業員に区分し、基幹作業員は資格要件を定め、現行の常用、定期作業員から選考する、基幹作業員については国家公務員法上の常勤職員として取扱うことを提示した。しかし、全林野は、昭和四五年一二月九、一〇日の団体交渉で、二確認中の基幹要員とは現行の定期、常用の全作業員を指すものでこれを選考し、また年令その他の制限を付することは新たな差別であると主張した。林野庁は、右七月提案を昭和四六年度実施を目途に昭和四六年二月までに関係省庁との調整を終えて全林野と本格的な交渉に入るべく関係省庁との調整に努力したが、他省庁にこれと同じ事例があるなど林野庁のみの問題ではなく、事態は極めて困難な情況になつた。一方同年三月二三日の衆議院内閣委員会および農林水産委員会で、同月二五日の衆議院農林水産委員会でこの問題がそれぞれ取上げられて議論され、さらに同年四月一三日同委員会において林野庁長官は政府の統一見解として国有林野事業の基幹的な作業員にはその雇用及び勤務の態様からすれば常勤の職員に類似している面があるが、制度的に常勤の職員とすることについては国家公務員の体系にかかわる困難な問題であるので慎重に検討する旨答弁し、この問題は極めて複雑かつ高度の政治問題となつた。そこで林野庁は同年四月一四日、全林野に対し、政府の統一見解に沿い、また林業振興についての決議の趣旨を尊重して処遇について慎重に検討する旨の態度を明らかにしたところ、全林野は、同月一六日、同月二三日にストライキを行うことを背景に林野庁に対し作業員を常勤職員として制度化することについての政府としての結論を早く出させるよう努力することや、これと関連した処遇改善策を要求して来た。林野庁はこれに対し慎重に検討した結果同月二〇日、基幹作業員の取扱いについては、常勤職員としての制度化は困難な問題であるが、林野庁としても政府としての結論を早く得るように努力するし、他の要求についても更に検討する旨の回答したのに全林野はそれを不満とし、林野庁の政府の統一見解に沿つて処遇改善に努力するが、今後とも政府部内の折衝や予算など問題が多く、責任ある発言をしたいのでしばらく猶予して欲しいとの再回答をも不満として、四月二三日にストライキを行うことを通告し、当日全国七二営林署において約五、三〇〇名の職員が始業時から約四時間にわたつて一斉に職務放棄を敢行した。

なお、林野庁は、抜本的処遇改善こそ前記の事情で果していないが、個々の改善については、二確認のころから次のような努力をしている。即ち、常用作業員のうち機械要員を欠員補充の形で昭和四一年から四五年までに二、七二三名定員内職員に繰り入れたり、新職種を設定して常用化を図つたりし、旭川営林局管内だけで昭和四一年四月から同四六年三月まで約一四五〇名(全体で九九一〇名)を常用化し、定期作業員についてもその雇用期間の延長を最大限に図つた。また、祝日を有給化し(昭和四六年一二月までに常用作業員は全休日、定期作業員は合計五日を)、生理休暇、忌引にも手当てをし、雇用基準の緩和による雇用安定化や諸手当もできる限り改善した。

(二) 本件争議行為

全林野は、昭和四六年春闘方針などに基づき大幅賃金引き上げなどの諸要求を貫徹することを目的として、昭和四六年四月二三日、同月三〇日、および同年五月二〇日の三回にわたり、勤務時間内の職場集会を手段とする全国的規模の統一ストライキを行つた。

全林野旭川地方本部(以下旭川地本という。)傘下にあつては、右ストライキを行うにあたり、当局の事前の警告を無視して旭川地本の直接指導のもとに次のようなストライキを行つた。

即ち、(1)、昭和四六年四月二三日(金曜日)

傘下の五営林署分会は、始業時間から一斉に職務放棄を行つたが、美瑛営林署においては、旭川地本美瑛営林署分会所属の五〇名が、北海道上川郡美瑛町の労働会館において、職務放棄のうえ勤務時間中に無許可の職場集会を行い、被告美瑛営林署長の再三の職務復帰の命令を無視して四時間にわたりその職務を放棄した。

(2) 同月三〇日(金曜日)

傘下の二営林署分会は、始業時間から一斉に職務放棄を行つたが、名寄営林署においては、旭川地本名寄営林署分会所属の三四名が、北海道中川郡中川町の未広旅館において、職務放棄のうえ勤務時間中に無許可の職場集会を行い、被告名寄営林署長の再三の職務復帰命令を無視して、四時間にわたりその職務を放棄した。

(3) 同年五月二〇日(木曜日)

傘下の二営林署分会は、始業時間から一斉に職務放棄を行つたが、羽幌営林署においては、旭川地本羽幌営林署分会所属の四八名が、北海道苫前郡羽幌町の石崎旅館において、職務放棄のうえ勤務時間中に無許可の職場集会を行い、被告羽幌営林署長の再三の職務復帰命令を無視しておよそ一時間四五分から二時間四〇分の職務放棄をした。

(三) 本件争議行為の影響

国有林野事業の業務は国民全体の利益と密接な関連を有し、その業務の停廃は国民の共同利益を侵害することは後記の事業内容から見ても明らかである。国有林野に対し人為的働きかけを最も効率良く行うため、経営に関する諸計画は長期的かつ総合的に末端の事業遂行の最少単位の業務まで盛りこんで作成されるから、その一部の不実施はひいては全体に波及し、その事業遂行に重大な支障を与える可能性を有する。例えば、伐採事業の遅れ、収穫、販売は勿論跡地の造林、育苗まで遅滞して正常な業務が阻害されるなどである。しかも、国有林野事業は、季節的、自然的制約が強く、一時的または短期の業務の停廃も有機的関連性を持つて連鎖的に他に影響し、回復困難な損害をもたらすものである。

2 (原告らに対する処分の理由)

原告らは、それぞれ別紙処分等一覧表処分の事由欄、職場集会実施場所欄、職場集会および職場に復帰するまでの職務放棄時間欄記載のとおり、前記1、(二)記載の本件争議行為に参加したところ、右の行為はそれぞれ前記一覧表の違反事項欄記載の法令に違反したことになるので、被告らは、同適用条項欄記載の法令により原告ら主張のとおりの懲戒処分をした。

3 (処分の適法性)

(一) 根拠法令(特に公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)一七条一項)の合憲性

(1) 労働権の本質

労働基本権は、国民の生活を維持するため、財産権と共に生存権確保のために国民の有する権利であつて、憲法の保障する基本的人権を天賦自然の性質を有する精神的自由権と制度的保障としての経済的自由権とに区分した場合、労働基本権のうち団結権は前者の、争議権は後者の、団体交渉権は中間の色彩を有するものといえるが、憲法上は経済的権利として位置づけられるものである。まして、公務員の争議権は、公務員の勤務条件が健康で文化的な生存を保持できないほど劣悪なものでないから、生存を賭け人間性の回復を求める本来的、非経済的な生存権的自由権と目しうる場合とは自ずから異なり、既に最低限度の生活水準を保障されている者が、更により豊かな生活を営むべく労働条件の改善を要求するための権利としての経済的自由権でしかない。

そしてまた労働基本権は生存権保障のための手段的権利にすぎず、それ自体が目的ではない。従つて勤労者の生存権確保のために他に代るべき手段があれば労働基本権を制限することも合理的な必要性のある限り違憲とはならない。憲法上労働法規を制定するについては勤労者の経済的地位の向上と安定を図り、健康で文化的な生活を営み得るようにするという理念の実現をめざすと同時に使用者側との権益の均衡、労使関係の社会的基盤をなす国民社会の構成員すなわち国民、国及び社会の権益との調和を図り、国民社会の健全な発展に寄与することを目的とすべく、労働条件決定の方法についても、団体交渉、法律による規制、第三者機関の決定などが考えられるが、それが公正かつ合理的なものであれば場合に応じて適当な方法を選びうる。憲法二八条は、団体交渉によつて労働条件を決定させることが、労使の利益の均衡点で労働条件の内容を決めるについて有効であり、公正かつ合理的であるという理解のもとに規定されたものであるから、使用者の営む事業、経営若しくはその担当している機能又は勤労者の地位、職務いかんによつては勤労者の団結又は団体交渉その他の団体行動が、国民社会を構成する国若しくは地方公共団体、国民全体又は社会の公共的権益を著るしく害し、また国、地方公共団体の公共的機能の実現を妨げることがあり、その場合には労働基本権の行使を許容せず、またはその態様などを制限するのが妥当と解される場合がある。憲法二八条は右のような趣旨をも含んでいるものであり、勤労者に一律、全面的に労働基本権を保証する旨を規定したものではない。

なお、労働基本権は、勤労者が人間らしく生活するための不可欠の権利であり、また実質的自由平等を確保するための権利であつて、単に経済的地位の向上のみのための権利ではないとする見解は、前記のような労働基本権の性質を理解しないものである。

(2) 労働基本権制限の根拠

前記のような労働基本権の性質に鑑みれば、労働基本権は絶対的なものではなく制約のあることは明らかである。ところで憲法が保障するもろもろの権利、自由といえども、具体的な現代の社会的基盤の上に妥当する権利、自由を当然に前提としているのであつてそれは現代の社会秩序の要請する制約に当然に服するものであるが、その制約の根拠を権利の内在的制約に求める考え方があるけれども、この立場はややもすれば基本的人権の過度の強調に傾き易いものであり、偏頗な見解といわざるを得ない。これに対し基本的人権は公共の福祉により外部から制約し得るとする見解があるがこれは基本的人権の行使と対立、衝突する利益が存し、それを侵しないし侵すおそれがあるときは基本的人権が制限されるのもやむを得ないとする考え方でこれを正当とする。そしてここでいう公共の福祉とは具体的には勤労者たる地位にあるすべての者を包摂した国民全体の共同利益即ち共同生活を営む勤労者を含む公衆の共通利益と理解すべきものである。しかも、労働基本権は先に述べたように経済的な権利であるうえに公共企業体職員を含む公務員の場合には次のような特殊性が加味されるので、その労働基本権を一率に制約することは、可能かつ合理的である。

即ち、

(イ) 公務員の地位の特殊性

公務員の労働関係は一般私企業の労働者のような資本家または企業経営者との間の労使の対抗関係ではなくして相手方たる使用者は国民でありその勤務関係は、国民の信託と国民への奉仕関係であつて、公務員は国家に対し役務を提供する使命を有し、義務を負うものである。確かに、今日給付行政の発展と共に、非権力的な現業の公務員が増加して来てはいるが、それらの者に公務員の地位を保有させるか否かはあげて立法機関の裁量に属し、その事業が政策的な意味から国の行う事業とされても一旦国の事業とされた以上、国民の生活のうえで不可欠のものと判断されたからだというべきである。そうであれば、公務員は、全て憲法一五条の定めるとおり「全体の奉仕者」としての特別の地位に立つもので、統一的、継続的に行政目的の実現のため、国の組織として有機的統一体となつて活動すべきであり、憲法二八条の「勤労者」といえるかどうかも疑問の余地があるほどの特殊性があるから、それを民間労働者と比較したり、公共性の強弱で区別したりするのは不合理である。

(ロ) 公務員の職務の公共性

公務員の職務は、国民の負担においてその負託のもとに国民全体の福祉のため継続的に非代替的な重要な役務を提供するものであつて、本来、利潤要求のためにある民間の公益事業とは異なつた意義を有し、その停廃は国民共同の利益に重大な影響を与える性質を持つ。なお、このことは、公務員に争議行為を禁止すると共に、公共企業体にあつてはその企業体にも事務所の閉鎖を禁止していることからも窺える。

国有林野事業についての公共性について具体的に述べると次のとおりである。即ち、わが国の森林面積は二五二八万ヘクタールで国土面積の六八パーセントに及び、その森林面積のうち七八四万ヘクタール(三一パーセント)が国有林で、森林蓄積量においては四四パーセントを占めている。これに対し、その余の部分を占める民有林は、その過半が個人所有の私有林で、その数二五七万戸にのぼる林業家に所有され、その大部分は一〇ヘクタール以下の零細規模のものであることからしても、国によつて統一的に管理運営されている国有林野事業は、民有林に比し、質、量共に森林の有する公益的機能を維持増進するという国民的要請により多く寄与している。その寄与は、例えば国有林の占める過半の地域が脊梁山脈部にあり、保安林などとして国土保全、水源涵養の役割を果し、また、その風致などから国民の保健休養に資し、国内需要の三〇パーセントにのぼる木材生産量をあげて林産物の安定供給をし、さらには林野の開発などにより農山村の福祉向上にも役立つている。その林野事業は、林野庁、営林局、営林署およびその付属機関が一体となつて、積極的に経営に関する計画に則つて治山事業、林道事業、種苗、育苗、造林事業など数多くの労力と費用をかけて行なつている。

(ハ) 勤務条件決定過程の特殊性

公務員の勤務条件は、国会の制定した法律、予算によつて決定され、使用者としての政府は勤務条件の最終的な決定権を有せず、その政府に争議行為により圧力を加えることは政府の処理しえない事項を要求するものであり、さらには公務員の場合民間企業のような会社の存在を危くする市場の抑制力も働かないため、政府は争議行為などによる損害を甘受する他解決の手段はなく不合理である。しかも、争議行為などによる圧力は、国会において民主的に行なわるべき公務員の勤務条件の決定過程を歪曲することになり議会制民主主義の憲法理念にもとる。

右を国有林野事業につき具体的に述べると次のとおりである。即ち、その予算は、国会の承認を要し(憲法八三、八五、八六条、財政法一七、一八、二〇、二一、二七条、国有林野特別会計法(以下特会法という。)一一条)、支出には使途の制限があり(財政法二三、三一ないし三三条)、決算は会計検査院の検査や国会への報告を必要とし(財政法三七ないし四〇条、特会法一四、一五条)、利益金の留保や処分についてまで制限がある(特会法一二条、同法施行令二二条)。また、国有林野事業に従事する職員には労働条件につき団体交渉権を有し、労働協約を締結することができるが、その範囲は法定されており(公労法八条)、団体交渉の対象ではあつても他の法令による制約(例えば、国家公務員等退職手当法、国家公務員災害補償法、定員法など)があつたり、給与についても給与総額が国会の議決で決まるうえ(給特法五条)、一般国家公務員や民間企業の給与その他の事情を考慮して決めねばならない(給特法三条)。さらに、その労働協定には国会の承認が必要であるし(公労法一六条)、決めても資金上、予算措置が不可能ならその協定の拘束力はない。

(二) 代償措置

もつとも、公務員とて生存権保障の趣旨から労働基本権が制約される場合にはその代償措置が講ぜられるのが相当であり、法は公務員にいわゆる法定された勤務条件を享受させるため、身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件について周到詳細な規定をおくと共に、中央人事行政機関として準司法機関的性格を持つ人事院を設けている。人事院は情勢適応の原則により公務員の給与、勤務時間などの勤務条件について、国会、内閣に勧告や報告をする義務があり、公務員も人事院に対し積極的にその行政措置要求をしたり、不利益処分に対する審査請求をすることができる。これに対し、人事院の勧告も国会に応諾義務がなく、公務員の権利保護から労働基本権の代償作用はないとの見解もあるが、それは民主主義をわきまえない見解で不当である。

右を国有林野事業について考えると、昭和三一年の公労法改正で設置された公共企業体等労働委員会(以下公労委という。)によるあつせん、調停および仲裁の制度をもつて争議行為を禁止したことの代償としている。仲裁裁定は公労委が第三者機関として公正に行うものであり、これに対して当事者双方が最終的決定としてこれに服従しなければならず、政府も当該裁定が実施される限り努力しなければならないとされている。ただ公労法の適用対象である三公社五現業の会計経理は予算について国会の議決を得なければならないので公労委の仲裁裁定が公共企業体等の予算上または資金上不可能な資金の支出を内容とするものであるときはこれにつき国会の承認が得られない限り政府を拘束しない(公労法三五条但書、一六条)がこのような制約は憲法上やむを得ない。公労委の発足以来、賃金関係の公労委の仲裁裁定は当局において完全に実施しており、公労委は有効に代償機能を果している。

(三) 限定解釈論について

一部には公務員の争議行為を全面一率に禁止する公労法一七条などをそのまま解釈、または事案に適用するのは違憲であるとの考えを前提として、右条項を合憲的にするため限定して解釈したり、適用を制限しようとする見解があるが、その見解が不合理で右条項が全て合憲であることは前記のとおりである。ここでは仮りに右見解に反論を加えておく。まず、右の見解は条文の文理解釈を超えたもので解釈論に名をかりて立法論を展開しようとするもので三権分立の理念にもとるうえ、その限定のための諸要件、即ち、職務の公共性の強弱とか、国民生活に重大な影響を及ぼす程度とかの具体的事案での判断に明確な基準がなく、いたずらに行政や裁判において混乱を招いている。また、その混乱は、ひいては処分などで国民の基本的人権を制限することについても明確な基準のないことになり、適正手続にも反し、到底採用できない。

(四) 仮定主張

なお、仮りに限定解釈論をとつても、前記のような公務員としての特殊性、本件争議行為に至る経過、本件争議行為の態様、およびその国民生活に及ぼした影響を考えると、原告らの行つた本件争議行為は公労法一七条の禁止する争議行為に該当し、違法のものである。

4 (原告らに対する処分の合法性)

原告らの行為に対し、各自の個人責任を追求して懲戒処分に付すことは、公務員の地位の特殊性による差異のあることもさることながら、規律を保持するため必要なものであり、確かに労働者にとつて争議行為は企業秩序の拘束から集団的に離脱して使用者の労務管理権を排除するものではあつても違法な争議行為の場合はその行為に対する免責が認められないのは当然である。まして、個人責任を原則として確立しているわが法制において右のような違法な争議行為について労働組合の責任しか追求しえないなどとするのは解釈論として到底成り立ちえないものである。

四 被告らの主張に対する原告らの認否(反論)

1 被告らの主張1について

(一) 同1、(一)、(1)のうち、作業員の制度上の地位は認める。

(二) 同1、(一)、(2)のうち、作業員が日給制であることは認める。作業員は、劣悪な作業環境のもと、労働災害や職業病の危険にさらされながら現実に国有林野事業を遂行しているにも拘らず、その処遇は月給制定員内職員と対比して著しく劣悪であり、定期作業員に至つては八箇月雇用、三箇月失業保険、一箇月無収入という雇用の継続で最低生活を余儀なくされている者もあり、その処遇の実態はとうてい国家公務員の名に値するものではない。賃金については、作業員は月給制定員内職員や民間全産業(五〇〇人規模)平均賃金と対比して著しく少く、手当の面でも私傷病(除く結核)の場合の保障、石炭、寒冷地手当などで著しく差別的取扱いを受けている。全林野は、その改善のため昭和四二年の春闘の賃金要求で、民間企業五〇〇人規模の賃金を努力目標にする、技能職月給制職員との格差を縮めて行くなどのいわゆる一〇確認を闘い取つた。ところが林野庁はそれを実行せず、ますます賃金格差は広がるばかりである。

(三) 同1、(一)、3のとおり、全林野が、創立以来の懸案であつた日給制職員の雇用安定、処遇改善のため、林野庁との間で二確認をしたことを認める。

(四) 同1、(一)、4のうち、全林野が、昭和四二年一〇月二四日、「差別を撤廃し、臨時的雇用制度を抜本的に改善する要求ならびに第一線現場の環境改善に関する要求」をしたこと、昭和四三年、全林野の二確認の具体化を図る交渉の中で、同年一二月二七日林野庁が基幹要員については通年雇用に改め、常勤性を付与し、それにふさわしい処遇に改めるという方針を示した(いわゆる「No.3確認」)こと、および七月提案のあつたことは認める。もつとも、七月提案は、林野庁が自ら提案した常勤性付与案である右二確認を昭和四四年末には「昭和四五年実施」といい、昭和四五年三月には「昭和四六年実施」とその実行にまつたく誠意のない態度を取つていたのに対し、全林野が厳しく早期実施を要求したので提示して来たものである。しかもその内容は基幹作業員とて任期は二箇月で、賃金は日給、または出来高制で従前の差別を温存するものであるばかりか、他の職種への転換の受忍をその選考の条件とするなどで、到底全林野の求める改善にはほど遠いものであつたから全林野はそれを拒否し、林野庁に再考を求めたのである。

昭和四六年四月二三日のストライキ突入までの全林野と林野庁との交渉の経過は次のとおりである。即ち、林野庁は、昭和四五年一二月一四日「No.5確認」で、常勤性付与の昭和四六年実施の決意は変らず、昭和四六年二月末までに関係省庁との折衝を終えて協議することを約束した。全林野は、雇用安定、処遇改善を重要課題として昭和四六年春闘にも賃金引き上げの他にその点を盛りこんだ。同年三月八日になつて、林野庁は、行政管理庁がだめだといつている旨回答しただけで自己の態度を明確にしないので、全林野が独自に関係各省庁と折衝したところ、人事院総裁は調整をかつて出てもよいと発言するような有様であつた。そこで全林野は、同年三月二二日の代表者会議で、現状打開と昭和四六年実施のためにはストライキを背景とした断固とした交渉以外にないと判断して、同月二六日のストライキを決定した。ところが、同月二五日になつて、この問題が衆議院農林水産委員会で採り上げられ、処遇改善を図れという林業振興に関する決議がなされ、同年四月には政府統一見解が出ることになつたので、三月二六日のストライキを四月二三日に延期して事態を見守つていたところ、政府は、作業員には常勤的側面はあるが国家公務員の体系の問題もあり慎重に検討する旨の見解を示した。そこで、全林野は、右委員会の林業振興に関する決議や政府見解のもとで林野庁に対して最低限、当面の処遇改善の方向を明示するよう求めたのに不誠実な回答しか得られなかつたので本件四月二三日のストライキに至つた。なお、昭和四六年春闘の他の争点である賃金については、全林野は全分会の職場討論を集約して同年三月八日、月給制月額平均一万五三〇〇円、日給制日額平均一三〇〇円を要求して団体交渉に入つたが、林野庁は何ら具体的な額を回答せず、同年四月二七日の第七回目の団体交渉で月給制月額平均四八九六円、日給制日額平均二一三円を提示した。これは、当時の物価上昇率、民間賃上げ相場などからまつたく問題にならない回答であつたので激しく再考を求めたにも拘らず、何らの再検討の態度すら見せなかつた。そこで全林野は同日、四月三〇日のストライキを決定しその指令を発した。当時、同一歩調をとつていた他の公共企業体の労働組合は、各企業体が前向きに努力する旨再回答したのでストライキをしなかつたため、右ストライキは全林野のみとなつた。その後も全林野は林野庁に対し再考を求め次の五月七日のストライキを同月一四日に変更したりして林野庁に検討の機会を与えたところ、林野庁が同月一二日の第一一回団体交渉において誠意をもつて考慮する旨の回答をしたので五月一四日のストライキを回避しその後交渉は調停に移行した。ところが、調停作業に入つても林野庁は全体との関係で具体案を示せないなどという自主性のない態度をとり続けたので、全林野は、五月一九日、翌二〇日のストライキを指令し、ストライキを決行した。もつとも、同日、調停委員長見解の発表があつたが、労使ともこれをのまなかつたので即日仲裁手続に移行し、そのため全林野は仲裁に期待して全一日の予定のストライキを二時間で中止した。

(五) 同1、(二)は認める。本件ストライキの目的は、雇用安定処遇改善要求(四月二三日のストライキ)と、賃金要求(四月三〇日、五月二〇日のストライキ)とであつた。

(六) 同1、(三)は否認。まず、争議行為の影響を考える場合、使用者の蒙る不利益と紛争の当事者でない国民の蒙る不利益は峻別すべきであつて、ここで考慮すべきは国民の蒙る不利益についてである。

木材供給面における国有林野の供給量は総需要の一四・四%にすぎず(しかも、直接国有林労働者によつて生産されるのは総需要の四・六%である。)、他の国有林野の果す公益的機能については、それを森林自体の持つ機能であつて民有林も同じである。

2 被告らの主張2のうち、原告らが本件争議行為に参加したこと、別紙処分等一覧表違反事項欄記載の違反ありとして適用条項欄記載の法令によつて処分を受けたことは認め、違反事項である法令の合憲性と処分の適法性は争う。

3 被告らの主張3について

(一) 同3は全て争う。

(二) 根拠法令の違憲性

(1) 公労法一七条一項は憲法二八条に違反する。

即ち、公労法一七条一項など労働基本権特に争議権を制限する条項は、米ソ冷戦の激化という世界情勢のためアメリカの対日占領政策が転換する際、当時超憲法的効力を有したマツカーサー書簡の示唆のもとに国家経済の復興を名目として国内法の立法形式をとつて成立したもので、法案作成から公布までの全過程を通じて一切の修正を禁止されていた。しかし、公労法一七条は、当初からその立法の拠つて立つ社会的経済的基盤がなかつたか、少くも今日では講和条約の発効による独立と経済復興との客観的情勢の変更からその基盤は崩壊してしまつており、憲法二八条に反し到底容認できない。

(2) 公労法一七条は基本的人権制約の合理的基準たる「必要最少限」を超えており憲法二八条に違反する。

即ち、基本的人権の享有は、その行使に伴う他人の基本的人権の侵害を当然に容認するものではなく、その行使に制約があることは当然であろうが、基本的人権を尊重する憲法理念のもとでは、全ての国民の基本的人権を最大限に享受させることこそ公共の福祉であり、基本的人権間の調整は当該人権ごとにその基本的人権の行使によつて矛盾衝突をきたす人権との関係で個別的相対的に検討さるべきである。こと公務員の労働基本権行使の保障の制約については、勤労者の提供する役務の公共性と、その停廃が国民生活全体に及ぼす影響を比較し、その影響が重大な場合、必要最少限に限つて考慮できることとなる。そこでの国民生活全体の利益は抽象的ではあるが、労働基本権の性質が生存権実現のための唯一不可欠の手段たるのみならず、取引の自由という市民的自由権並びに意に反する労働を拒否するという人間性の尊厳に根ざした根源的自由をも含む以上、それと同等ないし優越するもの、つまり生命、身体の安全が危殆に瀕する場合を指すと解すべきである。そうすると三公社五現業の争議行為を全面一率に禁止している公労法一七条一項は憲法に違反する。

(三) 被告らの主張に対する原告らの反論

(1) 労働権の本質

労働基本権は、歴史的に資本の仮借ないまでの搾取と劣悪な労働条件に対する労働者の人間性回復の叫びとして資本の弾圧に対し血みどろの闘いのうちに形成され、今日の法制のもとに正当性を付与されたものである。その法的性質は、労働者にとつて生存権を実現するための唯一不可欠の手段として、取引の自由という市民的権利の実質的な具現として、および、いやな条件では働らかないという人間の尊厳に根づいた根源的自由としての各性格を有する。労働者は労働力の売買についてストライキの脅威を背景とすることで資本に対して実質的平等な地位を得て取引できることになるし、その取引行為は一般商取引のかけひきと全く同質で、取引の自由という市民法原理を保障するなら労働者のこの自由も制限すべきではないのであり、さらに言えば、労働力という商品は人格と切り離すことのできない特殊性から労働者は意に反する条件では他人の支配下に労働力の提供を強制されないという自由意思が確保されねばならない。

(2) 労働権制限の根拠

前記労働基本権の性質から、その制約のための調整原理は、他の同等または優越する基本的人権、即ち人の生命、身体に危険が及ぶ場合しか考えられない。争議権のない団結権や団体交渉権が使用者に対し全く無力であることからも分るように団結権、団体交渉権、争議権が一括して労働基本権を構成し、これが生存権保障の唯一不可欠の手段となつており労働基本権を分割して考えたり、その手段性を強調したりしてこれを理由に安易に制限することはできない。

被告が公務員の地位の特殊性の論拠としている全体の奉仕者というのは憲法の予想する政党政治のもとでの公務員が特定の政党、階級など国民の一部の利益に奉仕すべきものではないという点に意義を有するもので、公務員の政治的中立性を確保するための規定であり国民が法的意味で公務員の使用者ではない。使用者は政府であり、それと公務員との関係は労務の提供とその対価たる賃金の支給という単なる労働関係であつて、身分的隷属関係ではない。まして、国有林野の職員は、公労法の適用を受け、それには公務員でない三公社の職員も対象とされている以上、全体の奉仕者論は国有林野の労働者には労働基本権制限の根拠にならない。

職務の公共性については、その概念自体曖昧であるうえ、他の民間労働者の職務にも公共性のある部門があるからそれだけでは公務員の労働基本権を制限する理由には乏しいうえ、国有林野事業の公共性は薄い。即ち、国有林野事業が国民に果す役割の第一である林産物の安定供給については、国有林野の地位はその生産量の停滞に対比して木材需要自体の増大、外材の輸入量の急増によつてその地位は低下し、昭和四五年では需要中、一四・四パーセントしか占めず(しかも国有林労働者の直接生産にかかるのは四・六パーセント)、価格安定効果も国有林野の企業的運営のため名目だけになつて来ているうえ、木材流通機構の関係で国民への影響はさらに少くなつている。

次に第二の役割である公益的機能は森林自体が持つもので、むしろ人為による伐採などを加えないことによつて確保される。もつとも、治山、造林などの形で公益機能の確保のため積極的な人為の要る分野もあるが、造林については天然更新もあり、治山も企業的採算の面からなおざりにされている。国有林野の運営は、政府のたてる長期基本計画によつて行うが、民有林とて全国森林計画などによる規制を受けている。

勤務条件決定過程の特殊性について、検討すると勤務条件法定主義とはいつても、憲法は公務員の勤務条件の全てを法律で定めることを要請しているわけではなく、また公務員の勤務条件をすべて法律で定めることは不可能であるし、現実にもできていない。そしてまた勤務条件が国会の審議により決定されるとしてもそのことが争議権禁止や議会制民主主義破壊に結びつかないのは公務員にストライキ権を認めている外国の法制やわが旧労働関係調整法などに照らして明らかである。使用者たる政府は公務員の組合と協議し合意する権限を有し、その協議の結果を法律案、予算として国会に対して提出する義務とその承認を受ける政治的責任を負う。政府は国会の多数党によつて構成されるため、政府の提案は承認されるのが通常であろうし、もし承認が得られない場合は国民の審判に委ねられる。なお、被告らは私企業の場合は労働者の争議行為についても市場の抑制力が作用し、いわゆる歯止めがあるのに対し公務員の場合にはこのような抑制力がないので危険であると主張するが、市場の抑制力などは独占企業にも働かず、公務員だけを取り上げることはできないし、そのため悪弊が出た訳でもない。しかも、国有林野の労働者の労働条件(例えば、定員(但し、作業員)、賃金、勤務時間など)は団体交渉による労働協約や、就業規則によつて定まるので、民間労働者と同様であり、右の理由は労働基本権制限の理由となりえない。

代償措置については、前記労働基本権の性質から必要最少限の制限である場合のみ代償措置を考えることができ、その代償措置とされる人事院も政府の任命する人事官によつて運営され、その勧告には拘束力もなく、かつて長期にわたつて政府が人事院勧告を完全実施しなかつたり、人事院自体が勧告をしなかつたりしたことのあることは公知の事実であり、十分な代償措置とはいえない。しかも、国有林野の労働者にとつては人事院は無関係であり、その代償措置と考えられるのは国家公務員法上の不利益処分に関する審査請求とその他任免関係の条文しかないが、右審査請求は個々人のためであり例えば本件のような団体的な請求にはその機能を十分果しえないし、他の条項はむしろ労働協約の対象であるのに同法があるためそれに従わねばならず不利益を蒙つている位で到底代償措置とは言えない。

(四) 仮定主張

前記のように公労法一七条一項は憲法に違反するが、仮りに右条項が合憲であつても本件処分は違憲である。

(1) 国有林野労働者の争議行為は公労法一七条一項の禁止する争議行為に当らない。即ち、争議行為の影響を受けるのは、第一に要求の相手方たる使用者と第二に紛争当事者ではない国民であるところ、使用者がその影響を受けるのは争議権行使の当然の結果であつて受忍せねばならない。国民に対する影響を考えると、国有林野の木材供給量は総需要の一四・四パーセント(うち、国有林野労働者の直接生産、四・四パーセント)でしかなく、森林の果す公益的機能も森林それ自体の機能であつて国有林野労働者と直接の関わり合いはなく、他に作為の必要なのは公益的機能の確保の作業だけであるが、これは超長期にわたつて行なわれるものでその影響はほとんどない。そうである以上、争議行為の国民生活に及ぼす影響は極めて間接的であり禁止すべき争議行為には当らない。

(2) 本件争議行為に公労法一七条一項を適用するのは憲法二八条に違反する。即ち、本件ストライキの目的、闘争経過、および闘争の必要性については前記のとおりであつて、本件ストライキの国民に対する影響は全くなく、本件ストライキは憲法で許された正当な争議行為であり、かつ、一般争議行為としても何ら正当性の範囲を逸脱してはいない。

4 被告らの主張4は争う。

理由

一、原告らの主張1、2のうち、目録原告番号八番、一一ないし一三番、一五ないし二〇番、一〇七番、一一九番の原告らが、全林野の組合員であることは弁論の全趣旨により認めることができ、その余の事実は全て当事者間に争いがない。

二、そこで、右懲戒処分が適法になされた旨主張する被告らの主張に従つて順次判断する。

1 被告らの主張1、(一)、(1)(作業員の雇用制度)のうち、国有林野事業に従事する作業員の制度上の地位が被告らの主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

成立につき当事者間に争いのない甲第五、第六号証、第一〇号証の一一ないし一三、第二〇、第二九号証、乙第一九号証の一、二、第三四号証の一、二、第六四号証、証人梶原怜、同高橋信義、同半田勉、同木村武の各証言、原告吉田亀子、同鈴木一雄本人尋問の各結果、および前記当事者間に争いのない事実によれば、国有林野事業における作業員の雇用制度は、昭和二六年の営林局署労務者処遇規程等により実施されていたが、公労法の適用を受けるようになつて昭和二九年三月一七日、林野庁と全林野との間に締結された「定員外職員の雇用区分、雇用基準及び解雇の場合に関する覚書」によりほぼ現在の制度となり、同四四年四月一四日、同一当事者間に締結された「定員外職員の雇用区分、雇用基準、および試用期間に関する覚書」によつて雇用基準が若干緩和されるなど一部改正されたもので、常勤、常用、定期、および臨時の各作業員からなり、法制上は、定員法、行政機関定員令に定められた職員以外の非常勤国家公務員として、人事院規則八の一四に基づいて採用されている者であること、その雇用基準は、作業に対する適格性を有することは無論として、常用作業員は一二箇月を越えて継続して勤務する必要とその見込みのあることなどを、定期作業員は毎年同一時季に六箇月以上継続して勤務することを例としその見込のあることなどを要件としていずれも二ケ月の期限付で採用されるが、常用作業員は更新により実質的に通年雇用であり、定期作業員は六箇月以上一年未満の有期雇用で失職中は失業保険金の支給を受けて生計を維持して翌年度の再雇用を待つという勤務形態を採つていること、作業員の数は、昭和四六年四月一日現在で、常勤作業員一五三名、常用作業員一万六三三六名、定期作業員一万九六一二名など(なお、林野庁の定員法に定められた職員数は前同日現在で三万九四八三名)であつて、その大部分は、生産手A、B、造林手、機械造林手などとして事業部門で勤務していること、および、国有林野事業における総雇用量は漸減しているものの、その中で常用、定期作業員だけがほぼ現状を維持し、臨時作業員が山村の過疎化もあつて激減して作業員の固定化が見られ、例えば、常用作業員の勤務年数は、昭和四五年一〇月現在で平均七・三年であり、その内訳は五年未満八八〇三名、五年以上二〇年以下六二一四名、二一年以上一〇六三名であることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。

2 次に被告らの主張1、(一)、(2)(作業員の処遇)について判断する。

同1、(一)、(2)のうち、作業員の給与が日給制であることは当事者間に争いがない。

前顕甲第五号証、成立につき当事者間に争いのない甲第二五号証、乙第三、第三五号証、第三九号証の一ないし三、第四〇号証の一、二、第四一号証の一、第四二号証の一、二、第四四ないし第四六号証の各二、第四九、第五〇、第六〇、第六七号証の各一、二、証人高橋信義、同半田勉、同木村武の各証言、原告矢部哲夫本人尋問の結果、および前記当事者間に争いのない事実によれば、昭和四六年の本件争議行為当時における作業員の処遇の実態の概要は以下のとおりであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

即ち、作業員の勤務条件については林野庁と全林野の間で締結された労働協約や国有林野事業作業員就業規則等で詳細に定められているところ、作業員の雇用形態については先に認定したとおりであること、賃金については、給特法の適用を受けて林野庁と全林野の間に国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約が結ばれており、基本賃金につき日給制がとられ、賃金支払形態として定額日給制と出来高給制が採用され、定額日給制については職種毎に格付賃金が定まつており、出来高給制については作業別の単位作業量当りの賃金にその者の出来高を乗じて得た額を支給する方式によつているが、その金額は昭和四五年当時で単純平均すると定員内職員の賃金の七五・八%(昭和四四年統計で常用作業員は八〇%、定期作業員六八%となる。)、民間企業(全産業平均五〇〇人規模)の全従業員の賃金の七八・三%(他産業の五~二九人の規模と同程度)であり、定員内職員との較差は定期昇給がない関係から年令が高くなるにつれて著しくなること、諸手当(扶養家族手当、山泊手当、役付手当、特殊手当、休業手当、期末手当、寒冷地手当はその支給を受けることなつているが、定員内職員と比較して、例えば、寒冷地手当は常用作業員で約四〇%、定期作業員で約一二~三%の額、石炭手当は同常用作業員で約六〇%、定期作業員で約五〇%の額であること、勤務時間については一日八時間(週四八時間、定員内職員は四四時間)で、休日については原則として毎週日曜日を週休日とし、他に月に作業休日が二日あること、有給休暇については、定員内職員の年二〇日に対し、常用作業員には勤続年数に応じ、一二日ないし二〇日(勤続年数五年未満のものは一二日、一〇年未満のものは一七日、一〇年を超えるものは二〇日)、定期作業員には九日の各有給休暇(格付賃金が支給される)が与えられている他有給の特別休暇等も定められているが、なお国民の祝日の措置、生理休暇忌引休暇、私傷病天災伝染病による隔離の場合の手当などについては定員内職員との間に較差のあること、退職手当については常用作業員には国家公務員退職手当法四条の二〇ないし二五年の長期勤続の場合の適用が受けられず、また、定期作業員には共済組合に加入できないこと、その他作業員は宿舎や制服、作業服の貸与について定員内職員との間に差異があること(法律上の制約から作業員は公務員宿舎には入居できないが、事業宿舎には入居でき、約一万六〇〇〇戸のうち約三〇〇〇戸に作業員が入居している。)、定期作業員の制度は国有林野事業の業務内容の季節労務的性格と地方の余剰労働力の吸収という面に支えられていたのであるが、過疎化により作業員が固定し、従前のような意味を失い、定期作業員の就職と失職の反覆という身分の不安定さが当面の問題となつていたことなどの事実が認められる。

3 そこで、作業員制度をめぐつての全林野と林野庁との交渉経過について判断する。

同1、(一)、(3)(雇用安定処遇改善のための「二確認」について)のうち、林野庁と全林野との間に被告ら主張のとおりの二確認がなされたこと、同1、(一)、(4)(二確認の具体化のための労使交渉について)のうち、全林野が昭和四二年一〇月二四日、差別撤廃等を要求したこと、同四三年一二月二七日、いわゆる「No.3確認」をしたこと、林野庁から同四五年七月いわゆる七月提案のあつたことおよび同四六年四月一三日被告ら主張のとおりの政府見解が発表されたことは当事者間に争いがない。

前顕甲第五、第二九号証、乙第三号証、第一九、第三四号証の各一、二、第三九号証の一ないし三、第四〇ないし第四二、第四四ないし第四六号証の各一、二、成立につき当事者間に争いのない甲第一ないし第三、第二七、第二八、第三二、第三四、第四一号証、第四三号証の一、第四四ないし四六、第五七号証、乙第二六号証の一、二、第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一、第三二号証、第三六、第四九、第五〇号証の各一、二、第五七、第五八号証、第六〇号証の一ないし六、第六一、第六四号証(但し、乙第六一号証は原本の存在とも)、証人半田勉、同木村武の各証言、原告矢部哲夫本人尋問の結果、および前記当事者間に争いのない事実によれば、前記作業員制度の改善をめぐつて次のような経緯のあつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

即ち、昭和二二年の林政統一以後、同二五年の営林局署労務者取扱規定、同二六年、営林局署労務者処遇規程にあつた常勤労務者(人事院事務総長通牒に基づく制度でのち、昭和二九年覚書で常勤作業員と改称)約一万名については、昭和三三年から三七年にかけほぼ定員化が図られたが、他の常用、定期作業員については、昭和三六年二月の常勤化防止に関する閣議決定もあつて、同三七年までに常用作業員のうち約一万名の定員化がなされたのみで他は定員法の枠外の非常勤国家公務員として残されたこと、全林野は、昭和二八年結成以来、作業員の定員化雇用制度の抜本的改革を強く要求して昭和三七・八年には組合員の動員行動(上京のうえ各省庁へ陳情することなど)をし、同三八年一〇月には差別撤廃を掲げて二九分のストをするなどの手段をもつて林野庁との団体交渉などを通じてその実現を政府、林野庁に反覆して要求し、林野庁と常勤化問題をめぐつて団体交渉を継続する過程で両者間に昭和四一年三月二五日には直営直用を拡大して雇用安定を図ると共に事業の通年化も進める旨の、同年六月三〇日には右の再確認と林業基本法一九条の趣旨にそつて雇用制度の抜本的改革を図る旨のいわゆる二確認が作業員制度改革の基本姿勢として打出されたこと、その後全林野は右二確認の早期実現を目ざして、昭和四二年一〇月二四日には差別を撤廃し臨時雇用制度を抜本的に改善する要求ならびに第一線現場の環境改善に関する要求書を林野庁に提出する等して林野庁と交渉を重ね、林野庁も全林野に対し再三にわたり右二確認の具体化に努力することを約し(同年一二月二三日の右二確認の立場を再確認すると共に一部非常勤職員の定員化を考慮する旨のいわゆるNo.1確認・同四三年一二月二七日の二確認の実現のために林野庁が関係省庁と折衝し、同四四年一月までに具体案を示す旨のいわゆるNo.3確認・同四四年三月二九日の常勤化については関係省庁と折衝中だが昭和四四年からの五箇年計画で冬山作業のできる場所の定期作業員を常用作業員にするよう努力する旨のいわゆるNo.4確認・同四四年末の常勤化のための改革を同四五年度に実施する方針の明示等)、同四五年度に実施すべく関係省庁と折衝したところ思うように調整できなかつたが、同四六年実施を目途にその調整ができることを前提として昭和四五年七月全林野に対し事務段階の素案であるいわゆる「七月提案」(作業員を基幹、臨時の各作業員に分け、現在の作業員から資格要件を定めて選考すること、処遇は基幹作業員を常勤国家公務員とし、二箇月任期、日給制とすることを内容とするもの)を示したこと、これに対し全林野が反対の意向を表明したけれども林野庁は全林野に対し同四五年一二月一四日に、昭和四六年二月までに常勤性付与について関係省庁との折衝を終えて当局案を示し同年度実施を図ることを確認し(いわゆるNo.5確認)、右提案の線に沿つて昭和四六年度に実施すべく関係省庁との折衝に入つたが他省庁の類似職員との問題等があつてそれがうまく行かないうちに昭和四六年三月二三日、衆議院内閣委員会、同農林水産委員会でこの問題が取り上げられ、同月二五日に同農林水産委員会において国有林野事業に従事する作業員制度の改革の促進を内容とする林業振興に関する決議がなされ、さらに同年四月一三日、同委員会において林野庁長官から「国有林野事業の基幹的な作業員は、その雇用及び勤務の態様からすれば長期の継続的勤務となつていること等常勤職員に類似した面があるものと思量されます。しかしながらこれらの基幹的な作業員を制度的に常勤の職員とすることについては、国家公務員の体系にかかわるなかなか困難な問題でもあるので慎重に検討してまいりたいと存じます。」という政府見解が表明されたこと、その後も全林野は林野庁にその具体化提案をさらに求めたが、林野庁は右のとおり問題が複雑化したため政府見解に沿つて慎重に検討するというのみで具体的方策については明らかにしないまま経過していたこと、その間全林野は作業員の雇用制度の改革および作業員の処遇改善を目的として四四年一二月同四五年三月同年一二月にそれぞれストライキを構えて林野庁と団体交渉を重ね(ストライキはいずれも回避された。)、さらに昭和四六年三月一、二日の全林野第五〇回中央委員会でも常勤制確立などを目指して三月二六日にストライキを計画して団体交渉に臨んだところ、前記のとおり、同月二三日に作業員の常勤化問題が国会で取りあげられ、同年四月中旬にこの問題についての政府の統一見解が出されることになつたので、その決行を見合わせたが、その後も期待するような具体的な回答が得られず、同月二三日のストライキ(本件争議行為)をするに至つたこと、また林野庁と全林野との間で交渉した結果作業員の処遇改善面において昭和四〇年に雑用車運転手二九七名が、同四二年から四六年にかけての機械要員二七二三名がそれぞれ定員化されるとともに一部職種(機械要員、工作工、厚生職群)の定員化への検討(一部実施)がなされ、同三六年から四六年にかけて有給休暇の日数の増加や祝祭日の一部有給化、年末年始特別休暇の有給化などの点について改善が図られ、同三九年に私傷病手当を新設し、同四三年に退職手当の改善を確認し、同四四年一一月に寒冷地手当の制度化などの処遇改善が行なわれ、前記認定の本件争議行為当時の水準に達していたこと、なお、作業員の常勤化問題をめぐる国会内の動きとしては、前記のほか昭和三七年三月八日、衆議院農林水産委員会で森林法の一部を改正する法律案を議決した際、国有林野事業の運営に当つては直営生産を堅持し、従業員の身分の安定と労働条件の改善を望む旨の付帯決議が付され、同三九年七月九日成立した林業基本法一九条にもその趣旨が嘔われ、同四一年六月には衆参両院社会労働委員会で国有林野の経営に関する件として国有林野事業に従事する労働者の雇用安定問題等につき質疑が行なわれ、同四五年四月一三日には衆議院社会労働委員会に野党提出の「国有林労働者の雇用の安定に関する法律案」が付託されたことが、それぞれ認められる。

4 次に昭和四六年春闘における賃金引き上げをめぐる全林野と林野庁との交渉経過については、前顕甲第六、第二〇、第二五、第四五、第四六号証、乙第三〇、第三二号証の各一、二、成立につき当事者間に争いのない甲第一〇号証の七、第二二ないし二四、第二六、第三六号証、第四二号証の一、二、乙第八、第二九、第三一号証、第三三号証の一、二、第五二号証、証人木村武の証言、および原告矢部哲夫本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

即ち、全林野は昭和四六年二月一日、中央執行委員会において七一年(昭和四六年)春闘方針として一万五〇〇〇円以上の賃上げ、日給制職員の差別賃金解消を要求すること、同年四月以後賃上げ交渉を本格化し、四月下旬から五月上旬に山場を作ることを打出し、同年三月一、二日、同第五〇回中央委員会において月給制一万五三〇〇円、日給制一三〇〇円の各賃上げ要求と四月下旬と五月上旬の山場、五月中旬の山場で一日から半日のストライキを行うことを決めると共に、同年三月四日には、全林野の加盟する総評大会でも誰でも一万円の賃上げを目指し、三月二六日にストライキ、四月二〇日以後に官民統一ストライキを行うことを決定したこと、同年三月八日、全林野は林野庁と第一回目の団体交渉を行つて当時月給制月額平均六万四〇〇〇円、日給制日額平均二三〇〇円であつた賃金について、月給制月額一万五三〇〇円、日給制日額一三〇〇円の賃上げを要求したのに対し、林野庁は他の公共企業体の交渉を見守ることもあつて有額回答をせず、次いで同年四月三日の第三回団体交渉では賃上げの方向だけを示し、同月二七日の第七回団体交渉で初めて有額回答をし月給制月額平均四八九六円、日給制日額平均二一三円を示したが、全林野はそれを不満として即日、三〇日にストライキを行う旨の指令を全国の拠点に発し、後記のとおりそれを実施したこと、その後も右団体交渉は続けられたが五月一三日の第一二回交渉において両者の合意ができずに決裂し、翌一四日、全林野は、公労委に調停申請を行い、労使交渉は調停に移行し、公労委の調停に付されたこと、公労委は同月二二日に調停案(月給制月額平均七四一三円、日給制日額平均三三〇円)を提示したところ、これについて双方の合意が得られず、同月二五日仲裁手続に移行し、六月一日調停案と同額の仲裁裁定により妥結したのであるが、この間に全林野は後記のとおり五月二〇日にストライキを行つたこと、および右賃上げをめぐる事情としては、物価が前年に較べ約五・六パーセント上昇しており昭和四六年春闘における民間賃金は単純平均で一万円弱の賃上げが行なわれていること、国有林野事業は昭和二二年からほぼ黒字基調であつたが、同四五年には一二一億三〇〇〇万円の大幅な赤字を出していること、および国有林野事業に従事する作業員の賃金は、前記認定どおり定員内職員、民間企業(五〇〇人規模)の従業員と比べると較差のあること(林野庁は全林野に対し昭和四二年春闘において日給制賃金について他産業五〇〇人以上規模の賃金水準を努力目標として改善する旨確認している。)などが認められる。

5 被告らの主張1、(二)、(本件争議行為)のとおり、原告らが全国的規模のストライキに参加したこと、および被告らが原告らに対し同2(原告らに対する処分の理由)記載のとおりの理由で本件懲戒処分をしたことはそれぞれ当事者間に争いがない。

三、そこで、右懲戒処分の根拠となつている公労法一七条一項が憲法二八条に違反せず有効であるかについて判断する。

憲法二八条は、勤労者に対しいわゆる労働基本権(団結権、団体交渉権、争議権)を保障している。これは憲法二五条に定めるいわゆる生存権を基本理念として、勤労者に人たるに値する生存権を保障するため、憲法二七条の勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障と共に経済的劣位に立つ勤労者に実質的な自由と平等とを確保するための手段として保障しているものである。そしてこの権利は勤労者として自己の労働を提供しその対価を得て生計を維持しているすべての者に対して保障されているものであるから公共企業体に勤務する職員および公務員も原則として保障されているものであり「公務員は全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない。」との憲法一五条を根拠としてそれを全て否定するようなことは許されない。

もつとも、労働基本権と雖も、何らの制約も許さない絶対的なものではないのであつて、国民全体の共同利益の擁護という見地からの制約を当然に受けるものであつて、このことは憲法一三条の規定の趣旨から明らかである。そこで具体的にどのような場合にどの程度の制約が憲法上許されるかについて検討する。

労働基本権が勤労者の生存権に直結し、これを保障するための重要な手段であることは右に述べたとおりであるから国民全体の共同利益の見地からこれを制約するにしてもその制限は合理性の認められる必要最少限度のものにとどめるべきものである。そしてこれを前提にすると労働基本権の制限は、勤労者の提供する職務または業務の停廃が国民生活全体の利益に反し、国民生活に重大な支障をもたらす虞れのあるものについて、それを避けるために必要やむをえない場合に考慮されるべきものであり、また労働基本権の制限違反に伴う効果、即ち、違反者に対して課せられる不利益については必要な限度を越えないよう十分に配慮がなされねばならない。そして職務または業務の性質上からして労働基本権を制限することがやむをえない場合にはこれに見合う代償措置が講ぜられなければならないものと考える。被告らは公務員(本件においては現業国家公務員)の労働基本権は経済的自由権と目すべきものであると主張するが、その見解は勤労者の生存権を保障する手段として憲法の認める基本的人権としての労働基本権に対する正当な理解とはいえない。また労働基本権は生存権保障のための手段的権利にすぎず、それ自体が目的でないから勤労者の生存権確保のために他に代るべき手段があれば合理的な必要性のある限り許されると主張するが、他に代るべき手段即ち代償措置はあくまでも代償措置であつて労働基本権そのものとは機能的に異るものであるから労働基本権の制限は合理的な必要最少限度のものに止めるべきである。

ところで公労法の適用があるいわゆる三公社五現業の業務は、その性質上一般的に公共性を有することは否定できないが、その業務の内容は独占性、公共性の強いものもあればそれ程ではないものもあり、それに争議行為といつてもその種類、態様、規模は様々で争議行為の国民生活への影響の程度もそれぞれ異なるものである。また、争議権制限の代償措置として存在する公労委も、賃金をめぐる紛争には有効に作用しえても、その他の勤務条件をめぐる紛争の解決について有効に機能し得るかどうかは疑問がないわけではない。したがつて、公労法一七条一項が、かような公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱や争議行為による国民生活への影響の度合代償措置の機能し得る限界を考慮せず公共企業体等の職員らの争議行為を全面一率に禁止する趣旨とすれば、争議権が労働組合の団体交渉における労使の対等関係を支える不可欠の基本権である以上憲法二八条違反の疑いを免れない。

しかしながら法律による禁止制限が文理上その内容において広範に過ぎ、憲法の保障する基本的人権を侵害するような場合、その法律を全面的に違憲無効としなければならないわけではなく主要な部分が合憲として是認し得るものであればその法律の規定を可及的に憲法の精神に則してこれと調和するようにしてできるかぎり合憲的に解釈する方が、若干の不明確さはあるにしても(但しこの点についても解釈でより客観化し得る。)その規定を全面的に違憲無効として排斥するより国会の立法権を尊重するという憲法の趣旨からすると合理的なものというべきである。そうすると公労法一七条一項の規定を労働基本権を保障した憲法二八条の規定の趣旨と調和するように解釈するならば、右公労法一七条一項の趣旨は、公共企業体等の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱と争議行為の種類、態様、規模とを相関関係的に考慮し、その公共性の度合、争議行為の態様等に照らして国民生活全体の利益を害し、国民生活への重大な障害をもたらす虞れのある争議行為に限りこれを禁止したものと解するのが相当である。従つてこれに反し公労法一七条一項が全面違憲であると主張する原告らの主張は採用できない。

被告らは、非現業、現業を問わず国家公務員(公社職員を含めて)は特殊性(地位の特殊性、公共性、勤務条件決定過程の特殊性)があるので、争議行為の全面一率に禁止することは合理的な必要性があり、かつ代償措置も準備されているのであるから合憲である旨主張する。しかしながら非現業国家公務員はともかくとしていわゆる三公社五現業の職員については以下国有林野事業に従事する職員を例に述べるとおり制度上非現業国家公務員と異つた取扱いがなされているのであり、これを前記の労働基本権を制限できるかどうかの判断基準に照して検討してみるとその地位の特殊性、勤務条件決定過程の特殊性を考慮してもなお公労法一七条一項の文言どおり争議権を全面一率に禁止するものとすれば憲法二八条違反の疑いを免れないので被告らの右主張に左袒しない。

そこで国有林野事業に従事する職員の国法上の地位および勤務条件決定の過程を概観すると、国有林野事業に従事する職員は現業国家公務員として後記のような公共性ある職務を継続的かつ統一的に遂行して国(国民)に対し不断の役務を提供すべき使命があると共に、その勤務条件の決定については公労法八条により多くの部分が団体交渉による労働協約に委ねられてはいるものの他の法律(国家公務員退職手当法、国家公務員災害補償法、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法、公労法一六条など)や予算による制約があつて団体交渉の相手方である林野庁のみでは処理しきれない面も多く、また制度上は市場の抑制力も働かないという特殊性を有してはいる。しかし、国有林野事業の業務は、非現業国家公務員とは異なりその主要な部分は私企業によつて遂行し得るものであり肉体労働的色彩の濃い職務が多く民間企業にも類似の職務に従事している労働者が多数おり法制上も非現業公務員と比較して勤務条件につき自主的に団体交渉により労働協約を締結できるなど労働基本権の制限の程度も緩和されている。また、代償措置についても人事院の関係する部分は少く、その多くは公労委に委ねられているのであるが、先に述べたとおり賃金紛争については有効に作用し得てもその他の勤務条件例えば本件における作業員制度の改革問題等については十分な機能を持つとはいい難い。そうすると林野庁も使用者側として団体交渉の場につく以上、交渉事項について誠実に交渉に当つて協定事項を履行すべきであり、協定事項の実現につき法律その他の制約があつて国会の承認を要するような場合にはそれを実現するため国会の承認が得られるよう努力する責務を負つているものというべきである。

以上のような諸点を考慮すると憲法は社会国家の理念を掲げた二〇世紀的憲法として、労働基本権を保障し法制上団体交渉権も認められている現業公務員についてその対等な交渉を保障する争議権を公務員の地位の特殊性、勤務条件決定過程の特殊性を根拠に全面一率に剥奪することは憲法二八条に反し許されないものというべきである。

四、そこで国有林野事業に従事する職員および組合の争議行為が公労法一七条一項により禁止されているかどうかを判断する。

前顕甲第一〇号証の一三、乙第三五号証、成立につき当事者間に争いのない甲第一〇号証の二、第一二、第一四号証、乙第一、第二、第七、第八号証、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし四、第一一ないし第一三、第一七号証、第二〇、第二四号証の一ないし三、第五五号証、証人伊藤繁夫、同半田勉、同木村武の各証言によれば、わが国は森林面積が国土面積の六八%を占め、森林蓄積量は約一九億立方メートルに及ぶ有数の森林国であるところ、国有林野は右森林面積の三一%、森林蓄積量の四六%を占めていること、民有林が昭和四五年現在二五六万有余戸の林業家によつて所有され、うち二二七万有余戸が五ヘクタール未満の林業家であるのに対し、国有林野事業は全国一四営林局三五〇営林署およびその事業所、病院などの付属施設と、定員内職員約三万九〇〇〇名、作業員約三万六〇〇〇名を擁する一大公企業体であつて、林産物の継続的供給という経済的機能はもとより、国土保全、水源涵養、国民の保健休養、貴重な動植物、自然景観等の自然保護など公益的機能の確保を目的として統一的、計画的に管理運営されていること、右経営目的実現のため、経済的機能の面では、昭和四五年度で約二〇〇〇万立方メートルの木材を伐採し、造林事業に二三八億有余円を投じるなどの事業を行い、林産物の継続的供給のため、全国森林計画に則つて樹立される経営基本計画に基づいて造林、育苗、伐採、販売の事業を行つており、公益的機能の面では国有林が多く脊梁山脈部に位置することもあつて、国有林中四四%(三五五万ヘクタール)が保安林に指定されているばかりか保安上必要な民有林の買収も行い、国土保全のため数次にわたる治山五箇年計画に莫大な費用を支出したり、さらには国民の保健休養のため自然休養林、野営場など諸施設をもうけたりしていること、および国有林野所在地の産業振興と地域住民の福祉の向上に資するため国有林の積極的活用を図り、ひいては当該地域の農林業の整備改善に資していることが認められ、右認定に反する成立につき当事者間に争いのない甲第四七ないし第五三号証の記載内容は国有林野事業の一部例外的事例であるし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

もつとも、前顕甲第一〇号証の一三、乙第三五号証、成立につき当事者間に争いのない甲第一〇号証の七ないし九、第一一号証の一ないし三、第一八、第一九、第三一、第五六、第五八号証、乙第一五号証の一ないし四、第三八号証の一、二、第六三号証の一、二(但し、乙第六三号証の一、二は原本の存在とも)、証人伊藤繁夫、同半田勉、同木村武の各証言、原告矢部哲夫本人尋問の結果によれば、林産物の国内市場への供給は国有林野事業のみの独占的機能ではなく、同種事業は民間においても広く実施されているし近年は外材の輸入により国産材の総供給量に占める割合は五〇%を切つており、うち国有林の占める割合は一四・四%しかなく価格安定機能もややその効力が薄くなつており、国土保全水源涵養などの森林の機能も国有林のみの保有するものではなく民有林を含んだ森林自体の保有する機能であること、また、現在国有林野事業においては立木処分が昭和四五年当時一二三二万立方メートル(製品生産は同七九七万立方メートル)を占め、事業においても造林主作業において下請率は五〇%を製品生産においても二〇%を超えており、公共性の強い治山事業についてもそれに従事する職員は全員の二%であつて事業の八〇%は下請によつていることが認められるが、かえつて、将来にわたつて外材に依存することはそれが外国の事情、資源の枯渇など不安定な要素を多く内包するため問題があるので、国有林野事業の多大の資本投下による統一的計画的な施業をし、それによる林産物の継続的供給や価格の調整に資する機能が重視されること、また国土を災害と荒廃から護り水源を涵養する保安林や治山事業は、特に国民生活に関連し、その安全を保持するのに重要な事業であり、それは森林の自ら保有する公益的機能を維持補完するに止まらず、人為を加えることによつて高度に発揮する努力が必要であること、右各機能は営利を追求し資本が少く財産保持的色彩の濃い民有林では十分に発揮し難いこと、および、未だ直営直用による施業はかなりの部分を占め、将来の拡大も考えられるし、治山事業についても下請による実施はあつても、その調査、計画、設計の大部分や監督、検査などの管理業務はほとんど国有林野事業に従事する職員が担当していることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、国有林野事業は民有林業に比較して公共性が強いものといえる。

ところで国有林野事業は成育に長期間を要する森林を対象とする特質を有し、かなりの長期的計画に立つて事業を行つているので、業務の一時的停廃による障害は直ちに顕著な形をとつて現われることはないが、造林や育苗作業などには季節的な制約があつて技術の進歩等により若干適期を拡大し得るにしてもその適期は限定されているので一旦自然が破壊されるとその回復には長期間を要し、業務の停廃の規模によつては回復不可能となる場合のあることも予想される。そうであれば国有林野事業の職員および組合の争議行為についても、その公共性に鑑み、争議行為の規模、態様如何によつては国民生活に重大な影響を及ぼす虞れがあり、争議行為の制限に対する一応の代償措置が講じられているのであるからそのような争議行為は公労法一七条一項により禁止していると解すべきである。

五、そこで、原告らの本件争議行為が公労法一七条一項に禁止する争議行為に該当するかについて判断する。

前顕甲第四六号証、乙第三二号証、成立につき当事者間に争いのない甲第三七号証、証人半田勉、同木村武の各証言、原告矢部哲夫本人尋問の結果、および前記一、二、5記載の当事者間に争いのない事実によれば、本件各ストライキは全林野の指令のもとに予め示された方針に基づいて全国の拠点となつた分会で統一的に行なわれたこと、昭和四六年四月二三日のストライキは常勤化のために定員外職員である作業員によつて行なわれ、同年四月三〇日、五月二〇日の各ストライキは賃金引上げのために定員内、定員外職員によつて行なわれたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで本件ストライキは、その規模や計画性において見るべきものがあるが、本件各争議行為はストライキという単なる労務の不提供であり比較的時間も短かく、国民生活へ及ぼした影響については国有林野事業の長期的施業であることもあるが本件証拠上明らかでないこと、本件懲戒処分の対象者がストライキに参加した第一線現場で働く末端の作業員まで多く含んでいること、および前記二1ないし5で認定した国有林野事業に従事する職員殊に作業員に対する処遇ならびに林野庁と全林野との間のいわゆる二確認、賃金をめぐる交渉経過などを考えあわせると、本件ストライキは公労法一七条一項の禁止する争議行為に該当するとは言い難い。

六、そうであれば、被告らのなした原告らに対する懲戒処分はその原因を欠く違法なものというべくその余の点につき判断するまでもなく原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

別紙処分等一覧表<省略>

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